欧州企業による米国企業の買収ブ−ムは米国のITバブルの崩壊を受け、ニOO一年前半でピ−クを打ったが、ドル・ユーロレートはすぐには反転せず、二OO二年初頭まで、-ユ−ロ〇・八五・九五ドルというユ−ロ安水準での一進一退が継続した。
欧州からの対米直接投資が減少したのに、どうしてすぐにユ−ロが上昇しなかったかについては、議論がある。
欧州の債券利回り低下を反映した米欧長期金利差の縮小、通貨リスクの分散ニーズを背景に、機関投資家の資金が米国の政府機関債や社債に向かったことがドル高期を長引かせた主因とみる向きが多い。
ユーロ圏諸国の流通紙幣残高に占めるドイツ・マルクの比率が欧州通貨統合前の九七年(第1四半期末)に四五%をピ−クに低下し、二OOO年末には四O%に低下、金額にすると二七O億ユ−ロに相当するマルク紙幣がドイツ連銀に還流してきたことに注目した。
酬東欧などユ−ロ圏外や非合法の地下経済(欧州のGDPの一四%に達するとの推計出もある)で流通・保有されていたドイツ・マルク紙幣が、ユ−ロ紙幣との交換に伴う一日当局の名義確認等を嫌って他通貨(ほとんどがドルと推定)に転換された結果であり、ユ−ロ安要因となったと指摘している。
蜘計量分析のやり方や、対象とする時期の違いなどにより、異なった結論が出ること川も考えられ、各国紙幣のユ−ロ建て紙幣への転換がどの程度ユーロ安要因となったかドについては、判断が分かれるところだろう。
こうした例を含めて、通貨統合問直後のユ−ロ圏の金融構造の変化が結果的には欧州からの資本流出を促進し、九O年勾代末から二OO一年にかけて米国への資本流入とドルを支えるという皮肉な結果になったのである。
ユーロ導入後の過渡期が終了し、為替市場の方向性がドル高ユ−ロ安からドル安ユーロ高に転換したのは、ニOO二年五月前後である。
二OO一年までの短期調達、長期投資の構造が逆転し、長期調達、短期投資に転換した。
すなわち、対外直接投資や株式投資が大幅に減少する一方、「その他」投資に含まれる金融機関の短期負債を通じた資金の取り入れが落ち込み、四半期によっては返済超過になるという劇的な変化を示している。
時期的には、米国のITバブルの崩壊やエンロン、ワールドコムに代表される巨額の不正会計問題の表面化に重なる。
米株価や社債の評価の基礎となる米企業の収益性が従来考えられていたものより相当劣後することが明らかになったことが、対米株式・社債投資の鈍化につながった。
欧州側の金融機関・投資家のバランスシートが欧米株価の下落や社債の債務不履行の増加によって、無視できないダメージを受け、リスクを採りにくくなったという要因もある。
デリパティプズの取引で、社債やロ−ンの保証をかなり引き受けていたとされ、そこから発生した損失もあった模様である。
これが欧州の金融機関による対外投資リスクの許容度を大きく低下させ、ユーロ圏を巡る資本移動の逆転につながったとみられる。
先にも述べたが、欧州が置かれているこうした状況は、九〇年代初頭の日本とよく、本邦投資家の対米不動産投資の増加を主因に円安が進行、株価・地価が急落すると、資本移動が収縮して逆に円高となり、デフレ圧力を強めた。
二OO三年央以降、株価の上昇を受けて逆にゲインが出た。
このため、通算でのロスはある程度取り戻したとみられ、欧州の金融機関や機関投資家による対外投資リスク圧縮は一服しつつある。
二OO三年央以降、先進国の株価が急速に回復する局面でも、欧州勢の対米投資は低迷を続けている(米財務省統計では二OO四年一の再構築が進展したとしても、二OO一〜二OO二年の巨額損失の発生を受けて合併・再編、財務リストラを余儀なくされたことの記憶は当分残る。
時間とともに欧州からの対米投資は回復に向かうとしても、過剰なリスクテ−クを回避しようとする警戒心が働き、「通貨統合直後の過剰な資本流出の後遺症」は、欧州からの対米投資に相当期間影響を持つかもしれない。
ユーロ導入直後の過渡期が終わりつつあるという観点でもう一つ注目されるのは、国際通貨、特に外貨準備におけるユ−ロの地位である。
「ドル本位制」とも呼ばれるドル中心の国際金融秩序を形づくっている。
国際通貨としての地位は、歴史的背景や軍事・外交などに影響されるため、経済計だけの単純な議論はできない。
とはいえ、貿易の規模、経済の独立性、為替規制の有蝋無、資本市場の多様性・規模・流動性、成長率やその安定性、対外資産・負債ポジシ駒ョンといった経済的要因だけを見れば、ユ−ロは、従来の欧州通貨(ドイツ・マルク附やフランス・フラン)の「寄せ集め」を超えた、ドルに次ぐ国際通貨になる可能性がドあると指摘されてきた。
通貨統合後、ユ−ロが安定的に上昇していくだろうという予科想が支配的であった理由の一つも、ユーロの国際通貨化が前提となっていた。
ユ−ロ導入後五年が経過し、ユ−ロはわずかにドルの地位を揺り動かし始めた兆候がある。
東欧諸国がEUに加盟し、一部諸国は通貨統合参加の準備を意識し始めていることに加え、欧州以外の国にも外貨準備をユ−ロに配分する動きが出始めたようである。
具体的にどの程度の規模でどの地域O二年一二月三日の欧州議会の証言で、欧州中央銀行(ECB)のドイセンベルク総裁(当時)は、同年(ニOO二年)後半に入ってからの変化について、以下のように述べている。
「名前は差し控えたいが、東アジア諸国の一部(ドル安阻止政策を継続してきたわが国ではなかろう)が、外貨準備を「相当規模で」ユーロに移した可能性がある。
(中略)世界市場において通貨がその地位を確立するには時聞がかかるが、これまでのユーロの国際化に関する動きは極めて満足できるものとなっている。
また欧州近隣諸国、特に中・東欧諸国は急速にユ−ロの使用を増加させている。
(中略)中・東欧諸国との経済・貿易面での関係がいかに近いものとなってきたかを如実に示している。
ユーロの役割は増大している」系列的に見たものである。
二OO二年末現在、ドルがなお六四・五%と六割を超えている。
ただ、その比率はユ−ロ導入初年の九九年末の六七・九%から六四・五%へと酬低下傾向なのに対し、九九年末に一二・七%であったユ−ロの比率は二OOO年、二市〇〇一年と一六%前後で推移していたが、二OO二年末には一八・七%へと上昇した。
二OO二年に入ってユ−ロ高が進行した結果という部分もあるが、ドルに対する蝋為替レ−トが上昇しても全体での比率が低下している円とは対照的だ。
蜘この他、ロシアや中東諸国の一部には、ドル安が原油輸出収入の減少につながっているとして、原油価格について従来のドル建てからユ−ロないしはそれを含むパスケドット通貨建てにすることを検討中との報道もある。
外貨準備、商品決済などでもドル問の不安定性に対するヘッジ(危険回避)の行き先として、ユ−ロが徐々に認知された可能性がある。
こうしたこともユ−ロ導入後の過渡期が終わり、ユーロの上昇カーが問われる局面に入ったことを示している。
ユーロ発足直後の過渡期が一巡する中で、欧州通貨統合が国際通貨システムに与える意味が問われ始めている。
今後の展開については大きな不透明感が漂う。
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